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吉備入唐間事
  吉備大臣入唐習道之間。諸道芸能博達聡慧也
と述べて、多才な人であることをいい、そして、入唐中、これを恥じた唐人によって幾度か死の淵に追いやられるなかで、その実力が次々に紹介されていくというような体裁をとった話である。

吉備真備の学力に驚き感じた唐人は鬼物が出るという楼に閉じ込める。鬼によって殺そうというわけである。深更におよんで確かに鬼物が出てきた。しかし、鬼物は日本国遣唐使で安倍であると名乗り、唐人にこの楼に押し込められ餓死させられ鬼物になった。それでも、安倍家とその子孫ののことが気になり、日本の使がここへ来るごとに聞きたいため出るのだが、皆、驚いて死んでしまい、自分の望みが達せられないでいるといった。吉備真備は安倍家のことを詳しく語り鬼物の願いを叶えてやった。これに対し、鬼物は唐の国事を教えてやると約束した。
翌朝になって、唐人が吉備真備の生きているのを見て大変驚き、そして次から次へと難題をかけてきた。そのたびごとに鬼物の援助によってこれらの難局をきりぬけていった。
☆一に文選文選の事
この国で真備に『文選』を読ませ恥をかかせようとする企てがあると教えた。鬼物の飛行自在の術をもって真備は楼を抜け出し、鬼物に案内させ帝王宮の『文選』が講じられる所へゆき、三十人の儒生に交じって講義を聞き暗唱、暦本に書いて唐の勅使を驚かせた。
☆次に囲碁の事
次に唐人は囲碁をもって真備をやっつけようとはかった。鬼物がこれを知って三百六十目ばかり組んでこれを教えたので、唐の名人との対局にも勝敗がつかず、真備はひそかに相手の石を一個の見込み、そのため唐人は負けた。唐人は石を数えると一個足らず、占ってみると真備が飲み下したことがわかったので、怒って「呵梨勒(かりろく)」を飲ませて出させようとしたが、止封の術をもって出さなかった。
☆食べ物を与えず
唐人は怒って食べ物を与えなかったが、鬼物が数ヶ月にわたって毎夜食物を持ってきてくれた。
☆結界の文を帝王の前で読ませた
つぎにまた、唐人は、名僧がつくった結界の文を帝王の前で真備に読ませた。真備は日本の住吉大明神と長谷寺観音を念じたところ、蜘蛛が文の上に落ちて来て糸を出し読み方を教えたので、これも難なく読破出来た。

唐人は楼に真備を封じ込めて殺そうとしたので、鬼物がこのことを真備に知らせた。真備は鬼に頼んで百年たった双六筒や卜占の式盤(ちょくばん)をとりよせ、盤で筒を覆う呪法を使って唐土日月を封じ込めた。
そのため、唐土は天地振動して大騒動になり、これを占うと真備の所為とわかった。真備は日本へ帰してくれるなら封じ込めを解こうといったので、唐人も仕方なく真備を日本へ帰らせる約束のもと、真備は日、月をかえしたという話である。

ここには、鬼物と自由に話し合え、しかも、日、月を自由に出来る真備が描かれている。そして、この鬼物こそが安倍仲麿であり、仲丸であるという伝説であることを「安倍仲麿詠歌事」の中で大江匡房は紹介しているのである。
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